24時間自由行動下血圧測定(ABPM)について
はじめに
高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれるほど、知らない間に体へ深刻なダメージを与える病気です。
適切な診断と管理を行うためには、単なる診察室での血圧測定だけでは不十分なことが少なくありません。
24時間自由行動下血圧測定(ABPM)は、
日中・夜間を通じて血圧を継続的に記録することで、
本当に必要な治療方針を導き出すために欠かせない検査です。
当院では、日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)に準拠し、
ABPMを積極的に活用して診療にあたっています。
ABPMとは?
ABPM(Ambulatory Blood Pressure Monitoring)とは、
小型の自動血圧測定装置を装着し、24時間にわたり一定間隔で血圧を測定する検査です。
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日中(仕事中・家庭内活動中)
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夜間(睡眠中)
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早朝(起床時)
にわたる血圧の動きを連続的に記録でき、
診察室では分からない異常な血圧パターンを正確に把握することができます。
ABPMでわかること
1. 本当の血圧の姿を知る
診察室血圧や家庭血圧だけでは見落とされる
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白衣高血圧(診察時だけ高い)
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仮面高血圧(診察時は正常でも家庭では高い) を正確に区別できます。
2. 夜間血圧・早朝血圧の評価
心筋梗塞や脳卒中は、夜間や早朝に多く発症します。
ABPMによって、
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夜間血圧が正常に下がっているか
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早朝に急激に血圧が上昇していないか
を詳細に評価でき、リスク管理に直結します。
3. 血圧の日内変動パターンの解析
睡眠中の血圧の下がり方によって、次のように分類されます。
型 | 特徴 |
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dipper型 | 夜間血圧が日中より10~20%低下(正常) |
non-dipper型 | 夜間血圧低下が10%未満(心血管リスク上昇) |
riser型 | 夜間血圧が日中より上昇(最も高リスク) |
extreme dipper型 | 夜間血圧が20%以上低下(脳梗塞リスク) |
特にnon-dipper型やriser型は、
心筋梗塞、脳卒中、心不全、腎障害のリスクが大きく高まることが知られています。
ABPMによる血圧の正常基準と高血圧診断【JSH2019準拠】
測定区分 | 正常血圧基準 | 高血圧の診断基準 |
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24時間平均血圧 | <125/75 mmHg | ≧125/75 mmHg |
日中(覚醒時)平均血圧 | <130/80 mmHg | ≧130/80 mmHg |
夜間(睡眠時)平均血圧 | <110/65 mmHg | ≧110/65 mmHg |
これらを超えている場合、
24時間高血圧・夜間高血圧・仮面高血圧と診断され、
通常より厳格な血圧管理が推奨されます。
ABPMの臨床的意義
高血圧診断の精度向上
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仮面高血圧や白衣高血圧を区別できるため、
過剰治療の回避や見逃し防止が可能です。
心血管リスク層別化
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non-dipper型、riser型を認識することで、
将来の心筋梗塞、脳卒中、心不全発症リスクを早期に察知できます。
治療方針の最適化
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降圧薬の種類、タイミング(夜間服薬など)を最適に調整できます。
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効果判定にも使用し、必要に応じ治療の見直しを行います。
当院でのABPMの流れ
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小型の血圧計(腕帯と記録装置一体型)を装着します(15分程度)。
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通常通り生活していただきます。
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日中は30分ごと
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夜間は1時間ごと
に自動的に血圧が測定されます。
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翌日、機器を返却していただき、データを解析します。
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結果に基づき、今後の治療方針をご説明します。
※検査中、腕が締め付けられる感覚がありますが、安全で痛みの少ない検査です。
まとめ
・ ABPMは、高血圧の診断精度を飛躍的に高める重要な検査です。
・特に夜間血圧や早朝血圧を評価することが、将来の心血管リスクを予防する鍵となります。
・ 当院では、高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)に準拠し、必要に応じてABPMを積極的に実施しています。
・ 「診察室血圧は正常でも心配」「朝の血圧が高い」「降圧薬が効きにくい」
と感じている方は、ぜひ一度ご相談ください。
あなたの本当の血圧を知り、未来の健康を守るために。
当院では、きめ細かな血圧診療をサポートしています。