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焦ったこと②

[2019.08.27]

前回の続きです。

 救急外来を半分くらい横切ったところで患者さんが急に眼球を上転させて両手足をガクガクと痙攣させ始めました。「心室細動!!」とすぐに分かりましたが、救急隊員は患者さんに「どうしたの?」と全然慌てるそぶりがありません。とにかく処置が必要ですので「救急外来にもどって!!」と救急隊員に話をして元の診察室へもどしました。

 心電図はとれませんが、状態から心室細動であることは間違いありません。鼠径部の動脈も触れません。すぐに心臓マッサージを開始して、外来の看護婦さんに応援を頼みました。看護婦さんには「DC!」と叫びましたが(どこにあるのか分からない)という顔をしていたので、そう言えば救急車内に除細動器はあると思い、救急隊員に「除細動器を持ってきて」と頼みました。看護婦さんには「挿管の準備をして」とお願いして心臓マッサージを続けます。(このままではこの患者さんは死んでしまうかも・・・)と不安がよぎります。長い時間がたったように感じましたが、救急隊員が除細動器を持ってきました。「準備して!」というと頭をひねりながらあれこれやっています。大丈夫かなあと思って自分が心臓マッサージを一瞬とめて除細動器のモニターをみると、「バッテリー不足」の文字が・・・・。「なんでバッテリー不足なの!?」と救急隊員に聞いても頭をひねるばかりです。どうなってしまうんだろうと思いながらもさらに心臓マッサージをつづけると、数名の看護婦さんが来て「挿管の準備ができました」と言って何やら大きな機械を押してくるのです。よくみると病棟から人工呼吸器を持ってきたのです。挿管の準備というのは一般には気管内挿管のチューブを用意することです。しばらくは酸素投与をしながら用手で換気をするので人工呼吸器はすぐには要りません。脱力感を感じながら「挿管チューブを用意して!」と改めて指示をするとほどなく病棟から除細動器が到着したのです。「パッドは?クリームは?」といっても頭をひねっているので、「ガーゼを水に濡らしてください」というと今度は20㏄の生理食塩水を少しずつ垂らしながら時間をかけてぬらしているので、めまいを感じながらカーゼをうばいとって水道の水で濡らしパッドの代わりとして何とか除細動を行いました。

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 直後、患者さんの意識はありませんでしたが、脈はしっかり触れますし呼吸も戻ってきました。除細動は成功したものと思われました。しばらくして徐々に患者さんの意識も戻ってきましたので、改めて12誘導心電図を付け直しましたが最初と大きな変わりはありません。

気を取り直して再度転送しようと考えましたがバッテリー切れの除細動器で転送はできません。改めて救急隊員に除細動器を見せてもらいましたが、やはりバッテリーがありません。「いつ点検したの?」と聞くと「今朝点検しました」と言うのです。「今日何回使ったの?」と聞くと「今回が初めて」と言うので何だか色々と信頼できません。しょうがなくC県の救急の指令センターへ電話をして別の救急車(救急隊)を呼びました。今度の救急隊はモニターも持ってきましたし、除細動器もきちんと使える物でした。それに救急隊員も話が通じます。

状態から転院搬送には付いていったほうがいいと考えましたので、自分も救急車にのりこみ搬送しました。その中で救急救命士に色々と話を聞くことができました。私は公立昭和病院の救命センターにいたことがあるので、救急救命士の人たちがどのような勤務をしているか、また研修しているのを知っていました。ところがC県ではいまだに救急隊の整備が遅れており救急車に救急救命士が乗っているとは限らないそうです。最初に到着した救急隊員も救命士はいなかったそうです(消防士なんだそうです)。だからあんな反応だったんだと色々と納得しながらほどなく搬送先の病院につきました。病院の担当の医師へ引継ぎし、患者さんに「頑張ってね」と声をかけて、後にしました。

それにしても色々と焦りました。心臓マッサージをしている最中に除細動器が作動しない状況やまわりの対応に(この人は死んでしまうかもしてない)と思って絶望的になりました。日頃どれだけ恵まれた環境で医療をしているかも実感しました。それと心電図をとらなくて帰宅させていたらと考えるとゾッとしました。それと(自慢ではありませんが)、もし今夜の担当医が自分でなかったら患者さんは助からないかもしれないとも思いました。自分は優れた医師とは思いませんが、とくに当時は心筋梗塞だけは見逃さないという気持ちでいつも仕事をしていました。緊急のカテーテル治療をやっていると必ずしも胸が痛いといって運ばれてくるわけでもないことを日々実感しておりました。とくに(これは右冠動脈の心筋梗塞で多いのですが)、下痢や嘔吐などで発症する心筋梗塞もよく見ていましたのでその経験も生きたように思います。

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実はこのエピソードには後日談?があります。半年後くらいにこの病院に当直した時のことです。夜に看護婦さんに「めまいの人が来ました」と呼び出されて救急外来に行きました。50代後半くらいの女性の方がめまいがするとのことで、診察室で横になっていました。一通り診察して廊下で待っているご家族を呼びました。すると患者さんの夫が「先生?先生じゃないですか?」と声をかけられました。なんと半年前に心臓マッサージをした患者さん本人だったのです。今日の患者さんはその奥さんです。「いやー元気でした?」「その節は本当にお世話になりました」などと会話をして近況をうかがいました。搬送後はそのまますぐにカテーテル検査をして、やはり左冠動脈がつまっていたとのことですぐに治療をして無事に退院したそうで、今では元気に暮らしているとのことでした。良かった良かったと手を取り合って喜んだのをよく覚えています。

あれからずいぶんと時間が経ちました。あの時の患者さんは元気かなあと今でも時々思い出します。自分の医師人生の中で間違いなく強烈に印象に残る出来事でした。

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