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医療における行動経済学

[2022.02.23]

「まん延防止等重点措置」が延長されました

新型コロナ感染症に対応する「まん延防止等重点措置」が、2月18日に延長が正式決定されました。決定前に専門家が諮問をする分科会では、初めて全会一致ではなく反対意見が出されたまま延長が了承されました。

こちらをご覧ください。


この延長に反対した委員の1人が経済学が専門の大阪大学の大竹文雄教授です。彼は労働経済学・行動経済学が専門で医療・感染症の専門家ではありませんが、行動経済学から医療界を分析しており私も彼の著作を数冊読んだことがあります。

行動経済学とは

医療における行動経済学とはどのようなものなのでしょうか?私が彼に注目したきっかけはコロナのワクチンに対する国民の賛否の反応を目にしたときです。新型コロナワクチンは客観的に見て優れたワクチンだと思いますが、以前からそして今でも反ワクチンの人たちは存在します。そのことに対して国や医療者から様々な情報が発せられていますが、必ずしも多くの国民に受け入れられていません。

ワクチンを打つことをためらう人に対して医療者は「理解できないのは理解力がないからだ」と思っている人たちもいるようですが、そう単純に言いきれるものではありません。
反ワクチン・陰謀説を訴える人たちは知識がない人たちだけではなく、なんと医師の中にも反ワクチン・陰謀説を唱える人たちが少なからずいるのです。

正しい情報を与えれば人間は正しい行動をすると思っていますが、我々は必ずしも合理的な行動をしないということは、経済学ではよく知られていることです。

例えば
(1)
A 確率80%で4万円が得られる
B 確率100%で3万円が得られる
という場合、どちらを選ぶでしょうか?

恐らく、Bを選ぶ人が多いと思います。

(2)
A コインを投げて表が出たら2万払い、裏が出たら何も払わない
B 確実に1万円払う

とするとAを選ぶ人がほとんどではないかと思います。

(1) の問題であれば、期待値からするとAの方が合理的でしょうし、(2)の問題であれば、AもBも期待値が同じですからどちらを選ぶ人もいてもおかしくないはずです。

我々は「損をすること」を恐れて行動するところがあるのではないかと思われます。

これ以外にも多くの状況で我々は必ずしも合理的な行動をとらないということが分かっています。

医療における行動経済学とは

医療でも同じことがあります。我々医療者は正しいデータを出せば患者さん(や国民)は合理的で正しい選択をするはずだと思い込んでいるところがありますが、現実は必ずしもそうではありません。

よく耳にする話ですが、癌になった場合に標準的な治療を選択せずに、民間療法などに頼る人々が少なからずいらっしゃいます。一般的には標準的治療というのがその癌に対して最も効果のある治療法であり、その情報を示せば皆さんがそれを選択するように思うのですが、効果が全くない(と思われる)高額な民間治療に手を出す方も多いのです。これは知識がないからということではなく、副作用が出たらどうしようとか同じ治療して調子が悪くなった方を知ったりして、その結果別な治療法にすがってしまうようなこともあるようです。患者さんは自分のことを客観的に見ることができなくなり、合理的な行動を取れなくなってしまう、これも医療の行動経済学で説明できるのではないかと思います。

ワクチン接種は合理的な行動が取りにくい医療行為

現代社会では子供たちはBCG,MR,水疱瘡、おたふく、インフルエンザなどなど多くのワクチン接種をされています。
ワクチン接種というものも合理的な行動を取りにくい医療行為であると思います。何故ならワクチンというのは基本的に健康な人に投与するものであるし、その効果は感染予防や重症化予防、癌の発症予防など何も起こらないことが目的であり個人ではその効果が実感できにくいものであるからです。

ワクチン以外では禁煙・ダイエットなどもなかなか難しいもののひとつですね。喫煙は癌や呼吸器・循環器にとっていいことのない行為ですが、その効果はすぐには実感しませんし、そのリスクは20年や30年たってようやく分かることですので、実行に移しにくいのです。肥満が体に悪いことは分かっていますが、今日甘いものや大好物を食べてもとくに体に悪いことはないのでついつい食べてしまうのも同じことでしょう。

我々医療者は「正しい情報を伝えれば患者さんは分かってくれる」と思って医療の情報を伝えていますが、患者さんはしばしば非合理的と思われるようなとらえ方をする可能性があると思って説明しなければなりません。

正しくメッセージを伝えること

ところで、最初に挙げた新型コロナ感染症に対応する「まん延防止等重点措置」の延長に反対して大竹文雄教授ですが、反対の理由として新型コロナが蔓延しているこの状況で「感染の場が、飲食店ではなく学校・家庭・高齢者施設へ移っていること」「コロナ禍の行動制限によって若者の自殺が4,900人増えたこと、結婚が11万件減ったこと」などから効果のはっきりしない政策は行うべきではないと述べています。

行動経済学は正しいことを言ってもそれを聞いた人は合理的な行動を取るわけではないということを教えてくれますが、代わりに誤ったメッセージを出すことをよしとしていることではありません。正しいメッセージを出すこと、そしてそれを理解してもらうにはどうすればよいのかをしっかり考えて行動したいと思っています。

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