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WPW症候群(Wolff-Parkinson-White syndrome)

[2021.06.20]

WPW症候群とは、先天的に心臓の正常な伝導路以外に副伝導路(ケント束)が存在して、そのために上室性の頻脈性不整脈が起こる症候群です。1915年頃からこのような存在が知られ始め、1930年に症例を発表した、Louis Wolff、John Parkinson、Paul Dudley Whiteにちなんでこの名前が付けられました。この心電図所見は珍しいものではなく、健康診断では1000人に2-3人程度みられると言われています。

心電図所見

心電図所見の特徴としては以下の3点が挙げられます

1.Δ波の出現:P波の後にQRS波の前にΔ波が生じます。
2.PQ短縮:Kent束経由の興奮が正常伝導路より先に心室に伝導することによっておこる。
3.QRS延長:Kent束経由の興奮と正常伝導路の興奮が心室で合流して幅広いQRS波形を形成します。

WPW症候群の症状

WPW心電図をもつ方でも必ずしも症状があるわけではありません。
WPW症候群の症状は発作性上室性頻拍(PSVT)による症状です。「突然脈が速くなり」「突然停止する」ことが最大の特徴です。脈拍はかなり早く、ときに200/分を超えることもあります。「規則正しい頻脈」が鑑別の第一歩ですが、普段の心電図があればすぐに診断はつきます。基本的に良性の不整脈ではありますが、症状が長時間続く場合には血圧が低下してふらふらしたり、失神を起こすこともあります。ただし、WPW症候群に合併した心房細動(AF)は注意が必要です。Wide QRSのPAFのため偽性心室頻拍と呼ばれ、心房の興奮がKent束を介してそのまま心室に伝わるため、心室細動を起こすこともあり注意が必要です。

WPW症候群の分類

WPW症候群の分類はKent束の位置によって3つに分類されます。
A型:Kent束が左側にあるもの
B型:Kent束が右側にあるもの
C型:Kent束が中隔にあるもの

潜在性WPW症候群

順行性ケント束伝導がなく逆行性ケント束伝導のみを有するものは潜在性WPW症候群と呼ばれます。デルタ波を伴わないため非発作時心電図からは診断することができず、電気生理学的検査が必要となります。

WPW症候群の発作時の心電図

(1) 順方向性房室回帰性頻拍:心房心室間で、房室結節を順行性に旋回するエントリー性の頻拍です。頻拍レートは速く(150-220/分)、幅の狭いQRS波が規則正しく出現します。

(2) 逆方向性房室回帰性頻拍:副伝導路を順行性に,房室結節を逆行性に旋回するリエントリー性の頻拍です。幅広いQRS波が規則正しくみられます。

(3)心房細動の合併:心房での不規則な高頻度興奮が副伝導路を介して心室に伝わるためRR間隔が不規則で,心室頻拍様の幅広いQRS波を認めます。

WPW症候群の治療について

1. 無症状の場合 

WPW症候群の心電図の方が必ず発作を起こすとは限りません。発作を一度も起こさない方も沢山いらっしゃいます。症状がない方はとくに治療は必要ではないでしょう。


2. 頻拍発作がある場合

(1) 発作性上室性頻拍の発作時の治療

(a)迷走神経手技による停止を試みます。
バルサルバ手技(深呼吸の状態で、息こらえをする)、冷たい水をのむ、冷たい水で顔を洗う、頸動脈マッサージなどがあります。
※以前行われていた眼球圧迫は危険なため行われません。
※※バルサルバ手技は息こらえを解除したときに効果が現れることがあります。何度か繰り返してみましょう。


(b)静脈注射による停止
ATP(アデホスコーワ)の急速静注やカルシウム拮抗薬(ワソラン)の静脈注射が一般的です。サンリズムやシベノールも効果的です。


(c)サンリズムなどをいつもより多めに内服するpill-in-the-pocketと言われる方法もあります。

(2) WPWに合併した心房細動の停止

WPWに合併した心房細動の場合、血圧低下をきたすばあいがあります。この場合は電気ショックを行います。血圧が保たれている場合はサンリズムやシベノールなどの静脈注射をもちいます。カルシウム拮抗薬やジゴキシンなどは心房の興奮がKent束を介してそのまま心室に伝わるため、心室細動を起こすこともあり禁忌となります。

(3) 発作の予防

発作を繰り返す場合は、カルシウム拮抗薬やベータ遮断薬の内服が効果的です。心房細動ではサンリズムやシベノール、タンボコールなどを内服しますが、カテーテルアブレーションの根治率が高いためアブレーションをお勧めします。

こぼれ話

不整脈発作の治療は循環器内科医の醍醐味です。勤務医だった時に当直中に他科の入院中の患者さんで不整脈で呼ばれることがしばしばありました。不整脈の種類としてはPSVTやPAFなどが多かったように思います。PSVTに対してアデホスを使用してピタッと止まった時は自分でも心の中で(やった!)とガッツポーズをしていましたが、他科の先生からも尊敬の眼差しを向けられたような気にもなっていました。(アデホスは一時的に心臓が止まりますので、あまり気持ちのいいものではありませんが)ただ、自分の経験ではないですが、外来にきた若い患者さんでPSVTにアデホスを使用したところ、実は心機能がものすごく悪くて、その後心拍が再開しなくて心肺蘇生して焦ったという同僚の話を聞くと、飛び込みの患者さんの場合は、抗不整脈薬を使うときは、念のためちょっとでも心エコーをして心機能を確認しないといけないなあと思っています。

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