新型コロナウイルスと高血圧について
NHKスペシャル「新型コロナウイルス ビッグデータで闘う」
先週、NHKスペシャルで「新型コロナウイルス ビッグデータで闘う」という番組が放送されました。ご覧になられた方も多いかもしれません。私は最近注目されている、大阪大学名誉教授の宮坂昌之先生が出演されるとのことでしたので結構期待して見たのですが、宮坂先生の出番は少なく、また病態解明についてコメントする場面も少なくて少しがっかりしました。
しかし、番組の冒頭から新型コロナウイルスが全身に症状が現れること、とくに血管の炎症と関連しており、まさに生活習慣病と同じメカニズムであるということをコメントされていて、肺炎がメインの感染症という概念から私が専門とする循環器疾患と大きく関連していることがさらに強調されており、さらなる興味が湧きたてられたところです。
先日Webの研究会でいくつかの大病院のCOVID-19に対する取り組みを拝聴することができましたが、みなさん色々な困難をかかえながら対応していることを垣間見ることができて、大変感銘を受けました。循環器の医師はECMOや場合によってはPCPSなどの対応にも駆り出されることもあると思い、彼らの頑張りが重症患者の予後に大きな影響を与えるのではないかと感じました。
番組の中で、国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター長 大曲貴夫医師が、「我々感染症科だけでは全くダメで、多くの科の協力がなければ対応できない疾患である」旨お話しされていました。多くの病院で感染症、集中治療、救急科、呼吸器科、麻酔科、循環器科など多くの科がかかわって治療にあたっているのではないかと思われます。
新型コロナウイルスと高血圧の関係
ところで今回は新型コロナウイルスと高血圧の関係についてお話します。
もともと新型コロナウイルスと高血圧の関係は早くから指摘されてきています。このウイルス(SARS-CoV-2)はACE2という膜タンパクを介して細胞内に感染することが知られています(図参照)。ACE2は肺や心臓、腎臓、血管などにみられるためこれらの臓器がCOVID-19では重症化のリスクがあります。
COVID-19と多彩な疾患との関連
高血圧はCOVID-19のリスクか?
イタリアからの報告によると死亡例では平均年齢が78.5歳で、1つ以上の合併疾患を有する例が98.7%であり、特に高血圧患者は73.8%に認められ、高血圧、特にARB/ACE阻害薬の服用がリスクになることが心配された(https://www.epicentro.iss.it/coronavirus/bollettino/Report-COVID-2019_20_marzo_eng.pdf)。
しかし、加齢、高血圧、糖尿病、喫煙、循環器疾患(心不全、脳卒中、狭心症、心筋梗塞)、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患などCOVID-19の重症化のリスク因子は高齢化による血管内皮障害のリスク因子であり、COVID-19重症化のリスクは高血圧そのものよりも、高血圧に関連した血管内皮障害や臓器障害などに起因する可能性が高いと思われます。
COVID-19とACE阻害薬/ARB
上記に示したように、COVID-19とACE2には関連があり、ACE2の発現が降圧剤に
使用されているACE阻害薬/ARBなどで増加させるというデータがあるためにウイルス感染を増加させるのではないかという懸念があります。
しかし現時点ではACE阻害薬/ARBなどの薬剤がウイルス感染を増加させたというデータはなく、これまでのところ「関係がない」という論文か、「むしろ予後が良好となる」という論文があり
(Association of Inpatient Use of Angiotensin Converting Enzyme Inhibitors and Angiotensin II Receptor Blockers with Mortality Among Patients With Hypertension Hospitalized With COVID-19. Circ Res. 2020.)、日本循環器学会も海外の学会も勝手に降圧薬を中止することに警鐘をならしております。
↓参照