メニュー

インフルエンザについて

[2019.10.18]

先日インフルエンザについて地域健康講座にてお話をしたので要点を記載いたします。

インフルエンザの症状

急性発症の発熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、咳嗽、咽頭痛など。通常3-7日程度で自然に改善する

→風邪と似ているが、ときに重症化して肺炎や脳炎を起こすことがある

とくに気をつけないといけない人

施設入所者 、高齢者(65歳以上) 、5歳未満の小児(特に2歳未満) 、妊婦、出産後2週間以内 慢性疾患の既往 、喘息、COPD、心疾患、悪性腫瘍 、慢性腎不全、慢性肝疾患、糖尿病 、血液疾患、神経筋疾患 、免疫抑制状態 、BMI≧40など

インフルエンザの死亡数の推移

日本でのインフルエンザの死亡数の推移です。超過死亡数というのがインフルエンザによって増えた死亡数となります。

年度

インフルエンザによる死亡数(人)

超過死亡数(人)

2000年

575

13,846

2001年

214

913

2002年

358

1,078

2003年

1,171

11,215

2004年

694

2,400

2005年

1,818

15,100

2006年

865

6,849

 

年によって数百人から1万人にのぼることもある 。

インフルエンザの歴史

流行が周期的に現われてくるところから、16世紀のイタリアの占星家たちはこれを星や寒気の影響(influence)によるものと考え、これがインフルエンザの語源であると言われている

血清考古学的には1889年に感染した名残であるA型インフルエンザウイルス抗体(H2N2)が後に検出されている

ウイルスが初めて人から分離されたのは1933年のことである。

人での流行の歴史は,H3N8(1900年),H1N1(1918年スペイン風邪),H2N2(1957年アジア風邪),H3N2(1968年香港風邪),H1N1(1977年ソ連風邪),そしてH1N1ウイルス(2009年パンデミック)という順になる。

スペイン風邪について

・第一次世界大戦中の1918年に始まったスペインインフルエンザのパンデミック

・世界的な患者数は 世界人口の25-30%(WHO)、致死率は2.5%以上、死亡者数は全世界で4,000万人(WHO)、一説には1億人

・日本では約2300万人の患者と約38万人の死亡者が出た

スペインフルの第一波は1918年の3月に 米国とヨーロッパにて始まったが、この第一波は感染性は高かったものの、特に致死性ではなかった。しかし晩秋からフランス、米国で同時に始まった第二波は10倍の致死率となり、しかも15~35歳の健康な若年者層においてもっとも多くの死がみられ、死亡例の99%が65歳以下の若い年齢層に発生したという、過去にも、またそれ以降にも例のみられない現象が確認されている。その後、スペイン風邪はA型インフルエンザ(H1N1)であることが判明している。

インフルエンザの感染経路

飛沫感染:咳やくしゃみとともに放出されたウイルスを吸い込むことによって おこる
接触感染:ウイルスが付着したものを触れた後に目、鼻、 口などに触れることで、粘膜・結膜などを通じて感染

インフルエンザウイルスは気道粘膜の細胞で増殖する

 

感染性がある期間、罹患率、流行

症状出現の24-48時間前からウイルスの排泄があり、発症5-7日頃まで続く 。感染した場合は潜伏期間は1-4日で、平均2日後。予防接種をしていない場合、インフルエンザへの年間の罹患率は、小児(18歳未満)で12.7%、成人で4.4%、高齢者(65歳以上)で7.2%と報告がある。

・日本では、流行は冬に起こる。11月下旬から12月上旬に始まり、1-2月がピークで4-5月には収束する

・南半球では7-8月がピーク、熱帯地方では、一年中発生する

インフルエンザの診断

迅速抗原検査キットでは

12時間以内で感度 35%、特異度 100%
12-24時間で感度 66%、特異度 97%
24-48時間で感度 92%、特異度 96%
48時間以上で感度 59%、特異度 100%

⇒症状出現から1日-2日で一番診断能が高くなる。流行時には臨床診断でインフルエンザとして良い。必ずしも迅速検査をしないといけないわけではない!

インフルエンザの治療

対症療法(解熱剤はアセトアミノフェン!)

インフルエンザの発熱はインフルエンザウイルスによる直接の発熱ではない。ウイルスの増殖を抑えるために体が反応しているので必ずしも解熱しないといけないわけではない。解熱剤の種類(ジクロフェナクナトリウム;ボルタレン®,メフェナム酸; ポンタール®)によってはインフルエンザ脳症発症との関連が疑われている。その他の非ステロイド性消炎鎮痛剤(ロキソニンなど)は症例が少ないのでなんとも言えない。今の所、アセトアミノフェンで脳症を増加させたという報告はないので、アセトアミノフェンが解熱剤として使える薬である。

漢方の効果は?

インフルエンザに保険適応のある漢方薬は麻黄湯(マオウトウ)、柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)、竹茹温胆湯(チクジョウンタントウ)の3種類である。そのうち急性期に使用できる漢方薬は麻黄湯(マオウトウ)である。麻黄湯はウイルス感染の抑制効果として桂皮(ケイヒ)、サイトカインの産生抑制の効果として桂皮と麻黄、免疫賦活作用として杏仁(キョウニン)と甘草(カンゾウ)が効いていると考えられる。麻黄湯の効果としては、抗ウイルス薬と併用した場合、発熱期間が短縮したというデータがあるのみで、高リスク群に対するデータはなく判断ができない。また、麻黄湯にはエフェドリンを含有しているので心血管系リスクを有する患者や甲状腺機能亢進症患者、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬・甲状腺製剤・キサンチン系製剤などを内服している患者では慎重投与となっており、注意が必要である。

抗ウイルス薬の効果は?

ノイラミニダーゼ阻害薬(タミフルやリレンザなど)は成人,小児の治療について有症状期間を平均1日前後短縮するという報告があるが、入院や重篤な合併症は減らさないとされている。しかし、これは低リスク患者のためで、高リスク患者ではオセルタミビル(タミフル)では死亡リスク減少させるという報告がある。その他の抗ウイルス薬ではザナミビル(リレンザ)で合併症を減少させるという報告、ペラミビル (ラピアクタ®(点滴))で オセルタミ ビル(タミフル)と同等の効果が報告されている。一方でイナビルは海外12カ国で行われた試験で症状軽快までの期間に有意な改善を認めなかったという報告がある。

新しい抗ウイルス薬バロキサビル(ゾフルーザ®)はタミフルと同等とウイルス感染価がタミフルより早期に低下するという報告があるが、バロキサビルへの感受性低下につながる I38のアミノ酸変異が12歳未満の小児が対象の国内第III相試験で23.3%(すべてインフルエンザA)に出現したという報告があり、2019年日本感染症学会から小児へは慎重投与が推奨される予定である。

インフルエンザのワクチン

<2019/2020年のインフルエンザワクチン>
A/Brisbane(ブリスベン)/02/2018(IVR-190)(H1N1)pdm09
A/Kansas(カンザス)/14/2017(X-327)(H3N2)
B/Phuket(プーケット)/3073/2013(山形系統)
B/Maryland(メリーランド)/15/2016(NYMC BX-69A)(ビクトリア系統)

ワクチンの有効性については、ワクチン株と流行株が一致するかで効果が変わる。一般的には40-60%程度と言われている。⇓参照

完全には発症を予防できないが、65歳以上の高齢者では、死亡を82%抑制するという報告があり重症化予防になる

1949年から1998年までの50歳以上の肺炎とインフルエンザによる死亡率とインフルエンザの予防接種との関係。
1962年から1987年まで日本の小学生はインフルエンザの集団接種を受けていた。10年以上にわたって予防接種は必須とされてきたが、1987年に緩和され1994年に廃止された。その後ワクチン接種率は低水準に低下した。
このグラフからは小学生のインフルエンザの集団接種が高齢者のインフルエンザや肺炎を予防していたことが分かる。

上記はワクチン接種と学級閉鎖の日数の関連。ワクチン接種率が低下すると学級閉鎖の日数が上昇し、接種率が上がると学級閉鎖が減る。

インフルエンザワクチンの安全性

インフルエンザワクチンの安全性は極めて高く、重度の副反応はない。インフルエンザワクチンは不活化ワクチンなので、ワクチンでインフルエンザの感染することはない。過去にインフルエンザワクチンで重度のアレルギー反応の既往がある場合 や明らかな急性発熱疾患罹者 はさけたほうがいいが、卵アレルギーの人は接種可能である。

妊婦では全例で時期に関わらず接種推奨である。 ただし妊娠第1期のデータは不足しているため、担当医と相談の上接種時期を決定する。インフルエンザワクチンの効果は母体のインフルエンザ様症状の発症の抑制、新生児のインフルエンザ発症の抑制 、死産と早期産を減らすとの報告がある。

インフルエンザ 生ワクチンについて

・弱毒化したインフルエンザウイルスを直接鼻腔内に噴霧することで、インフルエンザ疑似感染状態をつくり免疫を誘導する

・局所免疫IgA誘導により、発症予防効果が高い。

・細胞性免疫を誘導することにより、ウイルス株が違っていても、発症を軽症化させる作用がある

接種可能年齢は2歳〜49歳までである。生ワクチンであるため、理論上、インフルエンザ様症状(熱、咳など)を発症する可能性はあるが、そのような報告はない。米国予防接種諮問委員会(ACIP)は、2016-2017年、2017-2018年のシーズンに無効であるためこれら鼻スプレーのワクチンを使用しないよう推奨していたが、2018-2019年からはこの使用中止を取り下げた。しかし、まだ有効性についてのデータはない。日本ではまだ未承認であるため、個人輸入で使用している小児科が多い。

インフルエンザの予防法について

マスクと手洗いとインフルエンザ予防について

マスクと手洗いについて

マスクと手洗いで家庭内感染が減るという報告があるが、確実に有効であるという報告ではない。

10の小学校で手洗い、感染した場合は家にいる、顔をなるべく触らない、咳エチケット、具合の悪い人になるべく近づかないなど。アルコール手指消毒剤は各教室に設置し、一日4回使用することを指示した。
⇒インフルエンザAの診断者を52%減らし、欠席者を26%減らしたPediatr Infect Dis J. 2011. Epub 2011/06/22 (手洗い単独では差がなかった)

うがいについて

うがいでインフルエンザを予防するという報告はない(首相官邸のホームページにも記載あり)。ただし、水道水のうがいで急性上気道感染を36%減らすという報告あり。ヨード入りうがいでは減らさないとのこと!!

ヨーグルトによる予防

テレビ、インターネット、ブログで某ヨーグルトがインフルエンザ予防に効果があると盛んに言われています。某ヨーグルトのホームページからは試験結果についてみることができます。5つのうちマウスの試験が2件。ヒトの試験もなんとも歯に物が詰まったような言い方に感じるのは自分だけでしょうか?

最初に大々的な宣伝になった山形県舟形町、佐賀県有田町の小児のインフルエンザ発症を0にしたというデータは論文としては発表されていません。

現時点ではやはりほどほどの効果であると考えたほうがいいように感じます。

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME