新型コロナワクチン接種と心筋炎・心膜炎について
※当院では新型コロナワクチン接種後の心筋炎・心膜炎の検査に必要な、心電図・心原性酵素(トロポニンI/ H-FABP)、心臓超音波検査が至急で検査可能です。診療は予約にて承っております。ご心配な方はご相談ください。
新型コロナワクチン接種による副反応はさまざまなものが報告されています。発熱・頭痛・倦怠感などはその中でも頻度が多いものの、数日で症状が消失することが多いため重大な副反応とは認識されていません。
一方、副反応のうち心筋炎・心膜炎の頻度は少ないものの、命にかかわる可能性があり、最近しばしば報道されているところです。
7月21日には日本循環器学会は新型コロナワクチン接種と心筋炎についてこちらのような声明文を掲載しております。しかし、この声明文は「稀である」「軽症である」などとあいまいな表現のみであり、この声明文のみでは納得することは難しいのではないでしょうか?
そこで今回様々な報告をまとめてみましたので、ご参考にしてください。
心筋炎・心膜炎とは
心筋炎は,心筋が炎症をきたす疾患です.病因としてはウイルス感染症によるものが知られており、それ以外では膠原病などが関与するが,不明の場合も少なくありません。臨床像は無症状から心不全,不整脈、心原性ショックに至るまで多彩であり,突然死をきたすこともあります。
心膜炎は心膜腔に炎症が生じる病気です。しばしば心膜腔に液体が貯留します。
多くは原因がわからない特発性のものか,またはウイルス感染によるとされていますが,細菌感染,膠原病などの全身疾患,悪性腫瘍,甲状腺の病気,心臓手術・外傷後あるいは腎不全などでも起こります。
心筋炎・心膜炎とも特異的な治療はなく、NSAIDsなどの薬剤を使用したり、心嚢水がたまった症例では心嚢水を穿刺し排液したり、劇症型の心筋炎などで心原性ショックや難治性の不整脈をきたした症例ではIABPはPCPSなどにてサポートすることもあります。
心筋炎・心膜炎の症状
心筋炎・心膜炎の症状はどのようなものでしょうか?
アメリカCDCの報告では心筋炎や心膜炎の症状としては下記のようなものとなっております。
・胸痛、呼吸苦、心電図のST変化、心原性酵素の上昇、心エコーの異常など
心膜炎の症状として発熱や胸痛以外に、心嚢水貯留による低血圧などがあります。
また、心筋炎では発熱,心不全による呼吸困難,完全房室ブロックや心室頻拍など不整脈に伴う症状,心原性ショックまで様々な症状があると思われます。
新型コロナワクチン接種による心膜炎・心筋炎の頻度
2021年6月までのアメリカでの報告
・3億回の接種で心筋炎・心膜炎は合計1,226件(4.09人/100万回接種)
・30歳以下で、2回目の接種後が多い
・接種当日から5日目までが多い。
心筋炎・心膜炎の経過
・29歳以下の484例の心筋炎
・323例のうち309例が入院。そのうち9名が入院中、2名がICUへ(2021年6月時点)。
COVID-19とワクチン接種による心筋炎・心膜炎の頻度の比較
COVID-19によっても心筋炎・心膜炎を引き起こすことが知られています。
これまでの調査から12~17歳のCOVID-19患者では100万人当たり男子で450人、女子で213人に心筋炎・心膜炎を起こすことが報告されています。
一方、ワクチン接種では1回目の接種によって100万人当たり男子で9.8人、2回目の接種では66.7人、女子では1回目の接種で1.1人、2回目の接種で9.1人の心筋炎・心膜炎を起こすことが報告されています。
このことから男性では5.9倍、女性では21.0倍、COVID-19感染による心筋炎・心膜炎のリスクが高いことが分かります。
国内での報告
国内では、6月27日までに医療機関から19例、計20件(40歳未満の男性1例で心筋炎と心膜炎の双方の記載があるため2件を計上)の報告があった。内訳は、「40歳未満」が9件(8例)、「40歳~64歳」が4件、「65歳以上」が7件となっている。ワクチン接種記録システム(VRS)への報告と、ワクチン接種円滑化システム(V-SYS)への登録に基づく同日までの推定接種回数は3921万8786回接種(2623万8793人接種)。
※国内での報告は、医療機関からの報告によるものであり、実際の発生よりはかなり低くなっている可能性が高い。
新型コロナワクチン接種による心筋炎・心膜炎まとめ
・胸痛、呼吸苦、心電図のST変化、心原性酵素の上昇、心エコーの異常
・3億回の接種で心筋炎・心膜炎は合計1,226件(4.09人/100万回接種)
・30歳以下で、2回目の接種後が多い
・接種当日から5日目までが多い。
・性別では10代・20代の若い男性に多い
・男性では5.9倍、女性では21.0倍、COVID-19感染による心筋炎・心膜炎のリスクが高い。
コメント
新型コロナワクチン接種に伴う副反応にはいまだ不明な点が多くあります。とくに若い世代では感染による症状が軽い方が多く、一方で副反応による症状は激しい方も多く、ワクチン接種に躊躇している方も多くいらっしゃると思います。
ワクチン接種者と感染者を比較すれば確かに副反応の頻度は低いかもしれませんが、感染者が増えてきているといっても、そもそも東京都内でも累計で数%の感染者ですからこの新しいmRNAによるワクチン接種に懐疑的になることもうなずけます。
ただただ安心・安全を叫ぶよりは、できるだけ正確な情報を提供することでワクチン接種の正確な判断を促すことがもっとも重要であると考えます。
ただし、どんなデータがあろうとも、これまで問題なく使われてきたワクチンであっても、100%安全・安心な薬剤は存在しません。国産であろうとなかろうとそれは同じです。
結局はその病気の重篤さと薬剤の有効性(と安全性)を天秤にかけて判断するしかないと思われます。
新型コロナウイルスは変異を繰り返しながら今後も存在し続けるでしょう。そしてそのうち我々誰もが感染すると思っています。その時に取るに足らない弱毒のウイルスとなっているのか、インフルエンザくらいの症状なのか、全く予測がつきません。
現時点では高齢者や基礎疾患のある方が優先的にワクチン接種をすべきであるという考えに変わりがありませんが、感染状況の変化によってはもう少し若い人たちもワクチン接種が必要になってくるかもしれません。是非、今回のブログを参考にしていただければ幸いです。