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クリニック通信6月号

[2024.06.02]

まもなく梅雨のシーズンですね。皆さまいかがお過ごしでしょうか?
2019年6月1日に開院した当院は、この6月1日に5周年を迎えることができました。5年前のオープン初日も今年と同じ土曜日で朝からドキドキしていると、最初に診察室に現れた患者さんはなんと小学校時代の同級生でした。そのときの驚きと、嬉しさを今でも思い出します。5年間なんとかやってこられたのも、当クリニックへ通院してくださる皆さま、日々の診療に全力で協力してくださるスタッフ、そしていつも元気をくれる家族のおかげです。当院は令和元年5月1日に開設届を出しておりますが、令和元年は同日5月1日から始まりですので、まさに令和とともに歩んでいることになります。

この5年間はご存知の通りコロナ禍の5年間という印象があるかと思います。ただ開業した時点ではまだコロナの流行前で、当院は夏開業のため季節的に患者さんがとても少ない状況から、冬に入り患者さんが増え始めたところでコロナの流行がやってきたのです。その後外出自粛の要請、非常事態宣言となり文字通り街から人が消えていきました。オフィス街にある当院を訪れる患者さまも少なくコロナ感染の恐怖と先の見えない日々に落ち込む毎日が続きました。
その一方で、コロナの流行は医療の問題でもありますので、医療情報をブログに載せて発信したり、流行の初期段階からPCRの検査や発熱外来、オンライン診療の実施など、自分ができることは何かを常に考えて対応してまいりました。コロナ禍に遭遇した嫌がらせなど、苦い経験もありましたが、正しいことを誠実に粘り強く行うことがいかに大切なことかを痛感する日々でした。

さて今回は5周年として私の医師としての歩みを簡単にご紹介させてください。私が医師をめざそうと思ったのは高校の国語の教科書に載っていた遠藤周作の「札の辻」に大変感銘を受けたのがきっかけです。彼はキリスト者として「棄教した人物」や「弱者」をテーマに扱った作品が多いのですが、高校生の当時勉強もろくにせず、部活動もやめて中途半端な「ダメな自分」に遠藤周作の小説の「弱者」を重ね合わせていました。そして自分のような「ダメな人間」こそ病人に優しく寄り添うことができるのではないかと青くさい気持ちで医師をめざすようになったのです。

しかし苦労して北大の医学部に入ったもののオーケストラ活動に没頭する毎日、自分が医師になってからの生活はイメージできませんでした。実習が始まる前は手塚治虫の「ブラックジャック」や渡辺淳一の「白夜」の影響で外科医に興味を持っていましたが、外科の実習で自分には合わないと思い、白血病を患っていたオケのT先輩のお見舞いに大学病院の血液内科へ通ううちに血液内科医になりたいと思うようになりました。医師になって働き始めた大学病院では念願の血液内科研修を経て、次第に循環器の魅力に取りつかれて結局は循環器内科の医局へ入局することにしました。循環器科は他の内科と比べると、救急対応の頻度が高くカテーテル検査をはじめとした検査・治療が多く、やりがいのある診療科と感じました。ただし、夜間休日を問わず時間外の呼び出しも多く体力的にはなかなか大変な現場でした。大学病院では重症の患者さんの管理や珍しい症例も多く経験しましたが、とくに東大病院では東大で1例目の心臓移植の日にちょうどCCU当直でその現場に立ち会えたのは貴重な経験になりました。循環器の治療は重症で救命困難と思われる患者様も薬や手術でよくなる一方で体に負担のかかる検査・治療、高額な治療が多く、病気を進行させないための予防医療の重要性を実感する日々でした。

開業を決意した根底には、生活習慣病を管理することでその先の循環器疾患を予防したいということと、大病院や専門病院にはない心のこもった丁寧な診療をしたいという思いが募ったからでした。また内科の開業医は病気のゲートキーパーの役割もありますので、自分の専門以外でも勉強をして知識と経験を重ねることは大事だと思っています。

最近外来診療をするうえで、自分のやっていることは「シャーロック・ホームズ」と似ているなあと思います。コナンドイルの「緋色の研究」という小説の中で、ホームズはワトソンと出会った時に「アフガニスタンに行ってましたね」と言い、彼をびっくりさせます。そしてその推理の根拠を一つ一つ述べるのです。私も診察するときは患者さんの疾患は何なのか、何にお困りなのか、問診や診察をしながら推理します。その症状が意外な原因だったりすることもありますし、シャーロック・ホームズが事件を解決するように、あざやかに病気がよくなることもあります。病気の患者さんがよくなって元気になった様子をみると開業医としてのとてもやりがいを感じて心底嬉しくなります。まだまだ開業医としては未熟な点がありますが、高校生の時に思い描いた病いを抱えた人に優しく寄り添うことができる医師を目指して精進したいと思っています。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。(2024.6.1)

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