メニュー

ショパン国際ピアノコンクール2021まとめー1

[2021.11.21]

今更で申し訳ないのですが、先月に終わったショパン国際ピアノコンクールについて私の感想を含めてまとめたいと思います。

<結果について>

最終結果
1位: ブルース・リウ (カナダ)
2位: 反田恭平 (日本), アレクサンデル・ガジェヴ(イタリア・スロベニア)
3位: マルティン・ガルシア・ガルシア(スペイン)
4位: 小林愛実 (日本),ヤクブ・クシュリク (ポーランド)
5位: レオノラ・アルメリーニ (イタリア)
6位: ジェイ・ジェイ・ジュン・リー・ブイ (カナダ)

副賞
コンチェルト賞: マルティン・ガルシア・ガルシア(スペイン)
ソナタ賞: アレクサンデル・ガジェヴ(イタリア・スロベニア)
マズルカ賞: ヤクブ・クシュリク(ポーランド)

ファイナリスト
カミル・パホレツ (ポーランド)
ハオ・ラオ (中国)
エヴァ・ゲヴォルギアン(ロシア・アルメニア)
イ・ヒョク(韓国)

<ピアノメーカーについて>

今回使用されたピアノは以下の通りです

スタインウェイ479 (Steinway & Sons)
スタインウェイ300 (Steinway & Sons)
ファツィオリ (FAZIOLI)
カワイ (KAWAI)
ヤマハ (YAMAHA)

尚、最終結果と選んだピアノは以下の通りです。
今回は全員が1次予選からファイナルまで同じ楽器を選んだようです。途中で変更が可能というアナウンスが間違っていたのかもしれません。

1位: ブルース・リウ (ファツィオリ)
2位: 反田恭平 (スタインウェイ 479), アレクサンデル・ガジェヴ(カワイ)
3位: マルティン・ガルシア・ガルシア(ファツィオリ)
4位: 小林愛実 (スタインウェイ 479),ヤクブ・クシュリク (スタインウェイ)
5位: レオノラ・アルメリーニ (ファツィオリ)
6位: ジェイ・ジェイ・ジュン・リー・ブイ (カワイ)

1次→2次→3次→ファイナルのピアノメーカーと人数は以下の通り
スタインウェイ(No.479 /300): 64(43/21)→33(23/10)→17(13/4)→6(6/0)
ヤマハ: 9→4→0→0
カワイ: 6→4→3→3
ファツィオリ: 8→4→3→3

ファツィオリの優勝

今回ショパンコンクールで初めてファツィオリが優勝しました。優勝以外にも3位、5位にも入りましたのでピアノメーカーとしては今回はファツィオリのコンクールと言っていいと思います。前回は1次予選で1台しか選ばれずその1名も1次予選で敗退してしましたのでかなりの躍進です。一方で前回1次予選で最多(36人)のコンテスタントが選びファイナルでも半数(5人)が残ったヤマハは、2次予選で全員が姿を消すという残念な結果になりました。王者?スタインウェイも最初には64人という大勢のコンテスタントが選び、ファイナルの半数(6人)がスタインウェイを使用しましたが結果は2位、4位、4位ということで今一つの結果であったと思います。なかなか善戦したのがカワイで、1次予選で選ばれたのは前回の11人より少ない6名でしたが、2次、3次と残り、ファイナルに半数が残り2位、6位と前回と比べるはるかに良い結果でした。

それぞれのピアノメーカーについて

ファツィオリ

音は人によって感じ方が全く違い言葉で表現するのは難しいのですが、今回優勝したファツィオリは硬くてかなりキラキラ度が高いピアノという印象が私にはあります。高音などはまるでグロッケンのようなやや金属的な音のように聞こえますし、中低音は響板の木の香りを感じさせますが、癖がなくデジタリックなサウンドで4つのメーカーの中では最も現代的な響きだと思います。最近ではコンクールにファツィオリを選ぶピアニストも多いとのことで完全に名器としての地位が確立したのではないでしょうか?

スタインウェイ

スタインウェイは今回はNo.479とNo.300と呼ばれる2台のハンブルグ製の楽器を選ぶことができました。上に挙げたように479を選んだコンテスタントがかなり多く、実際にYouTubeで聴く限り479のほうがゴージャスな音で300は少し瘦せた音に感じました。そのせいか分かりませんが、最終的に残ったのはすべて479を選んだコンテスタントでした。スタインウェイはやはり安定した音色というか自分には一番しっくりする音に感じました。ファツィオリとの違いはやはり色彩の豊かさでしょうか?前回のヤマハの調律師が会場で聴くよりYouTubeで聴いたほうが音色の特徴がはっきり分かるとおっしゃっていましたが、曲の中で奏者が音色を変えたことが最もよく分かったのがスタインウェイ479でした。

ヤマハ

ヤマハは今回は本当に残念な結果となりました。牛田さんが2次予選で落ちたのはヤマハのせいだという意見もあるようですが、改めてヤマハの音を聞いてみても前回と特別劣っている感じはしませんでした。会場でどのように聞こえたのかは分かりませんが、こればかりは運が悪かったとしたいいようがありません。

カワイ

今回のファイナルの結果で個人的に嬉しかったのは、カワイ(Sigeru Kawai EX)が上位に入賞したことでしょう。Sigeru Kawaiの音色はファツィオリと正反対の音に聞こえます。よく言えば温かみのある音色で、悪く言えば洗練されていない音です。ただ他の楽器がどちらかというとクールでモダンな音を目指しているようなので、Sigeru Kawaiの明るく温かい優しい音色を聞くとホッとしました。ただ優しいだけなく気品も感じられて次回のショパンコンクールにも期待が持てるものとなったと思います。

<審査について>

牛田智大さんの2次予選敗退

今回、我々にとって大変衝撃だったのが、期待された牛田智大さんが2次予選で落ちてしまったことではないでしょうか?私はリアルタイムでは見ませんでしたが、直後の演奏をみてとても2次で落ちるとは思っていませんでした。さしたるミスは見当たらず、誠実で正統的な演奏だと感じました。彼が落ちた中で、名前はあげることはできませんが、私にとっては明らかに技術的に未熟と思えるコンテスタントが3次予選に残り、またファイナルまで残っておりモヤモヤした感覚が残りました。まあこれがコンクールといえばコンクールであって、自分が思った通りの結果にはならないのが常といえば常です。

YouTubeで聴くのはあくまで機械を通した音なので、会場で響く音がどのようなものであるのかは全く分かりません。「YouTubeと会場では音が全く異なる」とは会場で聴いた多くの方がおっしゃっていることなのでそれは真実でしょう。ただし、審査についての違和感は我々アマチュアがYouTubeを聴いていて感じただけでなく会場で聴いた専門家の間でも起こっていたようで、そのようなコメントを目にしました。

有力者の敗退

今回我々は牛田智大さんが落選したことで審査について注目されましたが、有力視されていた中で途中敗退したのは牛田さんだけではありません。例えば韓国のキム・スヨンさんは直前のモントリオールピアノコンクールで優勝して、今回のコンクールでも期待されていましたが3次予選で敗退しました。私はキム・スヨンさんの2次と3次を見ていましたが、素晴らしい演奏で  https://www.youtube.com/watch?v=RyTJTRIrAqg これでファイナルに行けないのはちょっとかわいそうに思えました。また、Yutong Sunさんの演奏 https://www.youtube.com/watch?v=TLwLx9yAqrE  も本当に素晴らしくその切れ味はちょっと背中がゾクッとするほどです。

個性が重視されたコンクール

今回の審査はこれまでの審査と比較すると、技術的なことよりも個性が重視されているように感じました。先ほど挙げた途中敗退した人たちはどちらかというと正統的な解釈・演奏をする人が多いようで、ミスも少ないです。これはある一定以上の技術を持ったメンバーが集まるとただ上手いだけでは上のラウンドに行けない、ということがあるのかもしれません。一方で、ショパンの楽譜に忠実ということと個性的ということは相反することとなります。審査員というのは優れたピアニストですから我々の知らないようなショパンの楽譜や手紙などをよく知っています。ですから我々が表面的にみて素晴らしいと思うようなことでも、楽譜で書いてあることと違ったりショパンの精神?とは違った演奏をすれば、それは良しとしないのではないかと思っていました。しかし、今回の審査はどちらかというと会場のノリの良さと一致して評価が高いように思いました。確かにホールで聴くと細かい音はあまり聞こえませんし、会場の雰囲気というのは大事です。ただそれだと人気投票になってしまうのではないかと危惧しています。

まとめ-2に続きます

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME